気遣いタッチ

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先日、先輩保育士から、日常の中で発達別に同じような場面を設定し「察する力」「対人知性」の姿を撮りたいということで、1歳児クラスでもその場面を設定し、記録してみることになりました。

〈検証1〉

1歳児クラスの中に、よく棚から玩具箱を落として玩具を散乱させる子どもがいます。その子はその後どのような姿をみせるのか、周囲の子どもたちはどのような反応をみせるのか、その一部始終を動画におさめ、子どもたちの対人知性をそこから感じようとしました。

まず、録画ボタンを押して記録をスタート。

スクリーンショット 2016-02-21 13.57.02よく玩具箱を落とす子どもに棚の前に来てもらい、箱を出してと促します。すると、案の定、「ガッシャーン!」と玩具箱が落とされました。その瞬間、周囲の空気が一変し、静寂が訪れます。面白いですね。

スクリーンショット 2016-02-21 13.57.24大きな音に反応しながら、その落としてしまった子どもの動向をうかがっているようです。落としてしまった本人は、周囲からの視線に気づき、なんとなく気まずくなったのか、「うぇ〜ん…」という泣き声を発します。しかし、次の瞬間泣き止んでいました。まるで、自分は反省しているよと瞬間的に周囲の人々に伝えているような感じでした。

スクリーンショット 2016-02-21 13.57.43次に、周囲の子どもたちはというと、近くの子どもや大人の表情をうかがっていました。そして、行動的な子どもの一人が散乱された玩具の元へやってきて、玩具を片付け始めます。その姿を見た別の子どもたちも一人、二人、三人…とやってきて、手伝い始めました。

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子どもたちが自ら「協力」しようとする姿が、伝わってきます。

 

〈検証2〉

まず、子どもたちが遊んでいる時、職員が「痛ーい!」と言って手を押さえます。

スクリーンショット 2016-02-21 13.58.57そのとき、検証1でもあった、あの空気感が周囲に漂います。もとから赤ペンでティッシュに色を付け、怪我したことを装う準備をしていました。「痛ーい!」という声が聞こえてきたとき、子どもたちは数秒身動きを止めていました。次に、ある子が「どうしたのー?」と近づいてきました。その姿を見て、別の子どもたちも集まってきて職員を取り囲み、痛がっている原因を探ります。

スクリーンショット 2016-02-21 13.59.22「ここいたいのー?」と心配そうに体をかがめて職員の動向をうかがっています。職員はというと、傷口に絆創膏を貼り、まだ痛がっています。

しばらくして、職員は「痛いけど大丈夫だよ」という表情を浮かべます。子どもたちは、少し安心した表情を浮かべます。そして、元気になったよと伝えるため、近くにやってきた子どもたちに“両手ハイタッチ”をしようと促します。両手を広げて「タッチ!タッチ!」と言ってくる職員に、始めは戸惑っていた子どもたちでしたが、ある子が反応します。どう反応したかというと、両手タッチではなく、怪我している手(右手)ではない逆の手(左手)だけにタッチをしたのです。

スクリーンショット 2016-02-21 13.59.35しかも、普段よりも優しくです。他の子たちにも「タッチ」と言うと、近くにいた全ての子どもが、手を出している職員の表情をうかがいながら、怪我に配慮した“気遣いタッチ”を行ったのです。1歳児であっても、こんなことができるのですね。

スクリーンショット 2016-02-21 13.59.49 スクリーンショット 2016-02-21 14.00.01 スクリーンショット 2016-02-21 14.00.24

これらの検証で感じた事は、こんなに幼い子どもであっても“他者のための自分であろうとする”ということです。相手の表情や仕草をヒントに、社会的な行為として実践しています。半年前、ブログの「研究発表」のなかで、『片付けという遊び』を報告させて頂きました。

それは、子どもが玩具箱を「ガッシャーン」と落とし、散乱させた後の片付けも一つの遊びと提供できるような環境の提案として書きました。言うなれば、その対象は子ども「一人」でした。しかし、その時期から様々な部分が発達し、今の子どもたちがいます。この時期には、「一人」よりも他の子どもたちが反応を示し、手伝ってくれます。それは、大きな変化です。

それと同じように、数ヶ月前と同じように見える遊びや関わりであっても、感じていること・考えていることは異なっているのだと感じました。また、その子を見ている他児自身の見方も変わっているわけで、子どもたちの“目には見えないベクトル”が縦横無尽に飛び交い、それらが交錯し合う頻度が確実に高くなっています。それはまさに、子ども自ら行おうとする「2歳児クラスへの移行」であるようにも思いました。

(報告者 小松崎高司)

気遣いタッチ」への2件のフィードバック

  1. 素晴らしい検証ですね!みなさんの発想力、観察力には本当に驚きます!保育という現場はまさに研究の場であるということを感じました。「まるで、自分は反省しているよと瞬間的に周囲の人々に伝えているような感じでした」とありました。このような子ども姿、そういえば私が働いている園の子どもたちにも見られる姿だなと思いました。周囲の中での自分を小さい子どもしっかり理解しながら生活しているということを感じますね。乳児クラスに行った時に子どもたちと触れ合うことがあるのですが、「あ、今気を使ってこっちに来てくれたなや気を使って反応してくれたなと感じることがあります。他者の気持ちを察する子どもたちの力には驚いてしまいますね。

  2.  〝それはまさに、子ども自ら行おうとする「2歳児クラスへの移行」であるようにも思いました。〟素晴らしいですね。小松崎先生の報告、今年もとても楽しみです。
     対人知性をテーマに取り組んでいたことがもう昨年のこととは、という感じで、月日の流れの早さに驚いてしまいます。今年もこの度の報告のような、素晴らしい報告やその素材が集められるように、日々アンテナを張り巡らせて、保育にあたっていきたいと改めて思いました。

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