保育園の騒音問題。これは最近、世間でもとても注目されていることのように思います。
東京都では、〝遮音壁〟を園舎に導入するにあたり、補助金が出されるそうです。
藤森先生は「それはおかしいのでは。」と仰られました。確かに、遮音壁は声が外に漏れることを防ぐでしょう。しかし、問題はそのことではなく、「子どもたちが騒音の中で過ごしていること、それが問題なのではないか。」という、藤森先生の仰る通り、子どもたちの日々の生活を問題にするという視点が欠けているように思えてきます。日本の保育園によく見られる吹き抜けのない天井、フローリングの床、と、音がダイレクトに反響してしまう環境が余計に子どもたちの声のボリュームを上げさせている要因となっているのかもしれませんね。実際、「建物の構造の理由で子どもが静かなこともある。」ということで、例えば新宿せいが保育園で用いられている床材は〝リノリウム〟という音の吸収率の高い床材を用いています。また、日本伝統の〝畳〟も反響しない床材の最たるものということで、こういった床材へ目を向け、環境を再構築することが、壁を厚くすることよりも騒音問題を考える上でとても大切なことのように思えます。
藤森先生は続けます。
「共に考え、深め続けることをしている時。こうしたらいいんじゃない?と子どもたち同士、友達同士で話している時に聞く力は育まれます。」
そして、
「話す力は提案する力です。」
前に立って話す先生の話を黙って聞くことが〝聞く力〟ではなく、自分の考えや思い、自己を主張することを大勢の前で恥ずかしがらずにできることが〝話す力〟でもない。遊びの中で生まれる相手の提案に〝耳を傾けること〟、そしてその提案することそれ自体が〝話す力〟であるという解釈はとても新鮮で、とても心に落ち着く内容を伴っています。
「新宿せいが保育園の子どもたちはとてもいい会話をしています。いい会話は騒音になりません。」
「騒音とは、大声を出すこと、奇声をあげること。」
こう続けられた後、最期に藤森先生はこう結ばれます。
「騒音問題の解決は質の良い会話をすることです。」
現在、毎週木曜日、週に1日を〝研究日〟として設け、山下先生や西村先生、森口先生を中心に子どもたちの姿を追っています。
実際に子どもたちはどれくらいの距離離れた子にどれくらいの声の大きさで話し掛けているのでしょうか。また、どのゾーンが一番会話がなくて、どのゾーンが一番大きな声が出るものなのでしょうか。ゾーンを設定する上でとても重要な内容について、データが集められています。
そして、ゾーン毎に繰り広げられている子どもたちの会話はどのようなものなのでしょうか。子どもたちの〝会話の質の高さ〟そのデータもまた、同時に集められています。
藤森先生は仰ります。「こうやればいいんだ、という目処がついたらGT園にそのやり方を伝えていきたい。」
〝見守る保育〟が、子どもたちを愛する保育者のすぐ側へ、すぐ手元へと落とし込まれ、誰しもが実践できるものへと練り上げられていくその道中に藤森先生はおられる、ということを改めて感じ、この度の講演は幕を閉じました。
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先生の講演を聞きながらとったメモを元に、その内容を咀嚼した上で報告をあげていこうと思い付いたはいいものの、とても時間がかかってしまいました。「100ページ以上のスライドの中からほんの15ページ」程の内容と藤森先生は仰っていましたが、時間にして2時間、本当に心打たれる内容でした。
とても勉強になりました。有難うございました。また藤森先生のお話をこうして聴ける日を心から楽しみにしています。
(報告者 加藤恭平)