「〝我慢〟と〝耐える〟は違います。」
藤森先生は仰いました。
そして、ただ〝耐える〟のではない、自分の感情をコントロールして〝我慢〟をする力、〝自制心〟を、子どもたちは保育園という環境下でどのようにして身につけていくのでしょうか。遊びに熱中している子どもがその遊びをやめなければならない機会の到来(例えば給食の配膳の時間が来た時、朝の会、帰りの会の時間が来た時)に対して、その盛り上がったホットな心をどのようにして自分でクールに導いていくのでしょうか。そのような方法をどのようにして学んでいるのでしょうか。
現在、毎週木曜日、週に1日を〝研究日〟として設け、山下先生や西村先生、森口先生を中心に子どもたちの姿を追っています。
さて話題は、保育所保育指針の改定へと進んでいきます。
その導入に、藤森先生はこのように仰っていました。
「発達障害は〝悪化もしないけど回復もしない〟と過去に言われていました。」
最近の研究では、発達障害は後天的な要素が多分にあり、脳の可塑性によりそれは〝回復できる〟とされています。後天的ではない元々の脳の障害とされる事例は、現在は全体の0.6%程とのこと。つまり、対人コミュニケーション能力や社会性、想像力に障害があるアスペルガー症候群やADHD(注意欠陥・多動性障害)などの発達障害は治る、と現在の研究は示しているということです。
「このことはとても重要です。」
それは、つまりそのまま、保育の重要性を示しています。
保育を考える上で、『保育所保育指針』が重要であることは言うまでもなく、平成20年の改定は大きな出来事でした。告示化されていた『幼稚園教育要領』を参考にして作られた『保育所保育指針』は、それ以前はいわゆる〝ガイドライン〟であったものの、平成20年の改定時に〝告示化〟され、保育者資格も国家資格となり、指針に書かれている内容は法律として守らなければならない事項になりました。時代によって変化する保育に対応すべく、10年毎の改定が定められていて、現在、平成30年の改定へ向けて作業は進行中です。今年度は改正案ができ、周知期間として各地で研修が行われるなどし、施行へと至ります。
今回の改定で大きく変わるところは、『保育所保育指針』第二章『子どもの発達』における『発達過程』の部分が削除され、卒園するまでに育ってほしい、望ましい姿だけがそこに書かれ、『発達過程』は補足程度のものになる、ということです。
『保育所保育指針』 (太字をクリックすると保育所保育指針の全文を読むことができます。)
確かに、発達過程が法律で決まっていたことにより、その過程を踏襲することに重きが置かれてしまうきらいがあったように、今更ながら感じられます。
例えば、五領域の中の一つ『表現』には〝感じたことや考えたことを自分なりに表現することを通して、豊かな感性や表現する力を養い、創造性を豊かにする。〟と書かれています。それを踏襲するように、遠足のあとにその思い出の絵を子どもたちに一斉に描かせたり、としている園も未だにあります。
例えば、粘土にしてもそうで、作品をつくるという意味では『表現』の範囲に入るかもわかりませんが、粘土で遊びながらそこには子ども同士の関わりがあり、会話があり、とすれば、五領域の『人間関係』や『言葉』もその遊びの中に含まれているということになります。
つまり、五領域とは、その領域ごとに活動を分けて考えたり、また、発達過程とはその発達を遂げる為に何かを教え込んだりするものではなく、あくまで子どもの成長を見守る上での保育の〝切り口〟である、ということがわかります。
とても勉強になります。指針の改定について、講演は続きます。
(報告者 加藤恭平)