ちょっと変わった職員が報告する勉強会~園内研修編4~ EPISODE 8

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「〝知ること〟や〝やること〟を挙げることよりも、〝知ろうとすること〟〝やろうとすること〟という学習態度、学習意欲へのアプローチが大切である」

それは、ノーベル経済学賞(2000年)の受賞者、ジェームズ・ヘックマン教授が〝ペリー就学前計画〟を基に研究されています。

このことは12年目に入られました藤森先生が毎日欠かさず更新されています『臥竜塾』ブログ2014年1月26日『非認知能力』の中でこう書かれています。(太字をクリックすると藤森先生のブログ『臥竜塾』にとび、この回のブログの全文を読むことができます。)

〝この研究は、幼児教育をおこなった子どもと何もしなかった子どもを追跡調査し、40歳の時点で比較したところ、高校卒業率、平均所得、生活保護受給率、逮捕者率などに差が現れたという研究で、1960年代からアメリカで実施された「ペリー就学前計画(Perry Preschool Project)」といわれる比較実験です。それが、ヘッドスタート計画の発端になったのですが、これを基にヘックマン教授が、さらに研究をしたのです。それは、少ない国家予算の中で、何を優先させることが将来その予算のかけた見返りが大きいかということの研究なのです。

ジェームズ・ヘックマン教授らは、公共投資の観点から幼少期の教育の重要性を説いた論文を発表し、近年日本の教育関係者の間でも話題となりました。この調査では、対象となった子ども達が成長して40歳に達した最近まで定期的に調査が実施され、比較分析の結果がまとめられているのですが、就学前教育を受けた人達(以下「実験群」)は、受けなかった人達(以下「対照群」)に比べて、高校卒業資格をもつ人の割合が20%高く、5回以上の逮捕歴をもつ人の割合が19%低かったとされています。また、月収2000ドルを超える人の割合は実験群が対照群の約4倍、マイホームを購入した人の割合も約3倍であった、との結果が出ています。

 その研究から、違うことも見えてきました。それは、IQ(知能指数)を長期的に高めることに、就学前教育による特段の効果は認められない、との報告がされていることです。つまり、たとえ乳幼児期などの早い段階から教科学習を開始したとしても、長期的にIQを向上させるという面では効果が薄いということがわかったのです。では、就学前教育・幼児教育の効果が最も顕著にあらわれたのは、一体どのような分野だったのでしょうか?

 ヘックマン教授らの論文によると、就学前の教育を受けた子ども達が最も伸びたもの、それは、学習意欲をはじめ、誘惑に勝つ自制心や難解な課題にぶつかった際の粘り強さなどの「非認知能力」であった、とされています。論文では、これら非認知的な能力の方が、実際の社会生活では重要とされることが多く、信頼される人間性こそ、雇用者が最も評価する点であり、粘り強さや信頼性、首尾一貫性は、その後の成績を予測する上で最も重要な因子である、と指摘されています。

 多くの場合、社会において重要視されるのは、学力や専門性よりも、考え方が一貫している、誠意がある、信頼できるなどの人間性だと考えられます。これらのような非認知的な能力の基礎を身に付けることが、基本的な人格の形成につながっていき、より良い人間性の土台を築くことになるわけです。〟

このことから、IQを向上させる教育、即ち、知識や技能を習得させる(認知的な)保育、教育は、将来への効果が極めて薄いということがわかります。藤森先生の小学校教諭時代の話もあり、とても納得がいきましたが、例えば、知識を習得させることに力を入れている園から来た子が1年生の頃に成績がトップだったとしても、ある日から、その子が園で習ってこなかった段階へ勉強は進んでいきます。そこで結局は認知的な教育の中にいた子よりも、〝知りたがる意欲の高いこの方が伸びる〟という結論になるのは、最早言うまでもないことのようにも思えてきます。

その〝知りたがる意欲〟こそが、保育の中で育むべきものであるということを指針に明記すべきであるというのは、最近の研究を踏まえたとても現実的な主張であることが納得できるように思います。

知りたがる意欲。そして、誘惑に勝つ自制心。難解な課題にぶつかった歳の粘り強さ。その力が子どもたちの将来を明るく、豊かなものにするのです。

それも、厚生労働省が提示している『保育をめぐる現状』の中の『海外の調査研究』における『保育・幼児教育の効果に関する海外の調査1』のグラフを見ていただけるとわかると思いますが、1歳半頃をピークにその後は下降しています。 (太字をクリックすると厚生労働省が提示している『保育をめぐる現状』の全文を読むことができます。)

先日の報告の中で「3歳、4歳から我慢を覚えさせようとすることは無理に近い。1歳から1歳半、この時期にどうやって我慢の力を身につけさせるかが保育の課題です。」と藤森先生の言葉を書きましたが、その回答となるのがこれです。

この大切な時期に、自制心を育む保育をすること、質の高い保育を子どもたちに提供することがとても大切なことであることが頷けます。

それでは質の高い保育とは。現場の視点で捉え直された具体的な内容を基に藤森先生の講演は続きます。

(報告者 加藤恭平)

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