〝質の高い保育〟とは。その答えの前に、質の高い保育がなぜ子どもたちにとって必要なのでしょうか。厚生労働省が提示している『保育をめぐる現状』の中の『海外の調査研究』における『保育・幼児教育の効果に関する海外の調査2』の中にはこのように書かれています。
(太字をクリックすると厚生労働省が提示している『保育をめぐる現状』の全文を読むことができます。)
1)保育の質の高さ(特に、保育者の言葉がけなどプロセス面)が、乳幼児の知的能力や 言語発達と関連。
・3歳になるまでに質の高い保育を受けた子どもは、そうでない子どもと比べて、3歳にな るまでの期間を通してやや高い知的能力と言語発達が見られた
・特に保育者の言葉の使い方(質問、応答性、その他の言葉がけ)が重要
・3歳になるまでに質の高い保育を受けた子どもは、そうでない子どもと比べて、4歳半の時 の言語能力や数字の理解といった標準テストの成績も良かった
※ただし、いずれも家庭や両親についての要因の方が、保育の質よりも子どもの発達に影響。
※この調査における「保育」とは、母親以外のものによって、業として行われるものをいう。
2)保育者(教師)と子どもとの良好な関係(3歳時点)が、小学3年時の学業成績に影響。
・特に、母親とのアタッチメントが不安定である場合、保育者(教師)と良好な関係をもつ経験による効果が大きい。
(読み易さに配慮し、各文章の文末にある(NICHD, 1999; NICHD, 2000)などの箇所を省略しています。)
1)ではプロセス面、取り組みの途中の重要性が説かれています。
「散歩もいく途中の声かけが大切です。」と藤森先生は仰いました。途中にある景色、風景、出来事を子どもたちと共に楽しむ。それと同じように、何かに取り組むにしても、「結果よりも取り組んできた過程を褒めること。」もし結果がだめだったらだめなのか。それは言うまでもないことで、「出来栄えではなく、過程を褒めることが大切です。」と藤森先生は続けられました。
出来栄えではなく、過程を褒めること。そこに保育者の〝言葉がけの大切さ〟というものが改めて見出されるように思います。
更に、2)について。初めて目にする方にはかなり衝撃的な内容だと思うのですが、「もう親のせいにはできませんね。母親とのアタッチメントが不安定である子程、保育者が可愛がってあげなくてはいけないということです。」と、とても印象的な言葉で藤森先生は説明をされていました。
質の高い保育の必要性。最早異論を唱える余地が見当たりません。
さて、それでは〝質の高い保育〟とは。その答えとなる、『保育・幼児教育の効果に関する海外の調査4』に触れたいと思います。
1)すぐれているプリスクールの特徴を分析した結果、共通点が確認された。特に、保育者と子どもたちとのかかわりに関する共通点は、以下の二点。
1保育者の子どもたちへのかかわりが、温かく、応答的であること
2「ともに考え、深め続けること(Sustained Shared Thinking)」と呼ばれるかかわりを含む、保育者と子どもたちの質の良いかかわり。
2)他にも、すぐれているプリスクールほど、子ども主導の遊びや活動、子どもが中心で教師がつなぎ発展させる遊びや活動が多いという特徴。
(読み易さに配慮し、※←などの注意書き含む一部を省略しています。)
「応答的とは、子どもがこっちに言ってくることに答えてあげることです。」と藤森先生。何ともシンプルで分かり易い表現ですね。それが対象が赤ちゃんであれば、「赤ちゃんの反応に合わせて、反応してあげることです。」例えばお腹が空いた時、オムツを替えてほしい時、その時に反応してあげること、ということです。「それが自発性につながります。」自分から発信したものを周囲の大人が感知してあげること。その中で自発性が育まれていくということを学び、改めて〝応答的〟であることの大切さがわかります。そして、それは職員間、人間関係についても同じことで「リーダーは応答的であること。新人と共に考え、深め続けることが大切です。」と藤森先生は言及されていました。
また、〝スマートフォンやお便り帳がこれを阻害しているのではないか〟という話もあり、とても興味深く思いました。赤ちゃんは大人の〝視線〟がわかります。外でスマートフォンに目を向けながら子どもに対応している親を目にすることがありますが、子どもはそれを応答的と感じることができません。また、お迎えの際に何よりも先にお便り帳を読んだり、会話ができるようになってからも子どもに話しかけることもせずにお便り帳からその日の様子を知ろうとする親もいるようで、〝質の高い保育〟をこうして真剣に考えた時、保育の先進国のように国の定めとしてお便り帳がなくなれば、とどうしてもそのように思ってしまうことは仕方がないことのように思えました。
そして、藤森先生が「これが私たちの目指す保育です。」と仰られた〝2) 子ども主導の遊びや活動、子どもが中心で教師がつなぎ発展させる遊びや活動が多い〟は、見逃すことができません。自分たちの創り出す環境がこのようになっているだろうか、改めて省みる機会を与えていただいたようでもありました。
講演もいよいよ後半に差し掛かかります。最後に藤森先生は〝保育園の騒音問題〟について触れられます。
(報告者 加藤恭平)