『ARTが生み出す子どものチカラ』のシンポジウムは、乳幼児期の子どもの力を引出すのに、アートというところから考えることが大事ではないかといったことに賛同した方々によって開催されました。一つの例としてレッジュ・エミリアでの実践から学び、そこからどう日本独自のアプローチをしていくか、子どものイメージをどう見るのか、それぞれ違うイメージをどう捉えていくのか、子どもの育ちや可能性をどう引出すことができるのか、それを皆で協力・共同しながら語り合っていく、これからの未来の子どもたちの可能性を育むあり方を考えていくといった趣旨となっています。
香川県高松市では、2009年から芸術専門家による芸術経験を活かして、子どもたちの可能性を見守る「芸術士がいる保育所」という取り組みをしています。「芸術士」というのは、絵画・彫刻・パフォーマンス・デザイン・工芸など、
様々な分野で表現活動する作家さんのことで、その名前は高松市が生み出し、芸術士が保育所に在中していることを目指して始まった制度です。高松市から委託を受けている「アーキペラゴ」というNPO法人が、自治体では初めて、保育園、幼稚園、子ども園に芸術士を派遣し、保育の中で保育士と連携しながら、毎週1回、年間を通じて、子どもたちと造形活動や身体表現など様々な表現活動を、日常にある「アート」の目線から関わろうとする取り組みをしています。
では、「芸術士」は実際に子どもたちとどう関わっているのかというと、普段子どもたちが遊んでいる“折り紙”は15㎝の正方形ですが、それが1mの正方形であったらどうなるのかといった発想から、それを実際に環境として用意して子どもと折ってみたり、普段遊んでいる遊具にペイントをしたらどうなるのか、プールに1500個のガチャガチャのカプセルを入れてみたらどうなるのか、トイレットペーパーでぐるぐるまきになってみたらどうなるのか等、普段、保育園にはないような発想を持ち込み、子どもたちの「探究心」を刺激し、「想像力」を高め、「創造力」を引出していきます。
私が、印象に残ったのは「保育園にはないような発想」というところです。気になりますね。その後の話を聞いていて、面白い発見をしました。それは、ある活動を、芸術士が撮った写真と保育士が撮った写真とを見比べた時です。保育士が撮った写真は、子どもたちが楽しそうに遊んでいる全体像や活き活きとした表情をおさめていたのに対し、芸術士は、対象物目線からの子ども写真や、足で物と触れ合っている時には、その足だけに焦点を当てて撮った写真などがありました。保育士は、子ども全体・その場全体を把握しようとしています。芸術士は、子どもと対象物とか関わっているポイントをクローズアップしようとしています。まさに、両者が大切にしているものが異なっている様子が読みとれるのですが、芸術師のそういった一つの分野を「追求・探求」するといった視点や着眼点が「保育園にはないような発想」として上がったのではないかと感じました。
芸術士は、それぞれが芸術のある分野の専門家なので、自分の得意な分野からアプローチをしていました。例えば、陶芸家や彫刻家は「粘土」という一つの素材から、多くの遊び方を提案します。身体表現家はリズムに合わせて体を動かすという一つの表現から、デザイナーは「服」という一つの分野から、できるであろう多くの可能性を発信し、ありとあらゆる素材を子どもに託します。まるで、常にチャレンジし続け、その素材の可能性を探し求めているかのようです。
保育の専門家である私たちは、どこをクローズアップするべきなのでしょう。私はそれが、趣旨にもあった「育ち」であると感じました。保育者一人ひとり異なる「育ち」から、子どもの「育ち」の可能性を引き出し、「追求・探求」し続けるといった使命が、保育士にはあるのでしょうね。
つづく…
(報告者 小松崎高司)
子ども達が様々な人から刺激を受けるということはとても大切なことですね。様々な人がいることを知る、感じることは多様性にもつながっていくとうに思います。社会の中には様々な人がいる。もちろん保育園の中にも様々な人がいますが、長い間同じような人で保たれた集団は、もしかすると価値観が似てくるというようなことも起こってくるのかもしれません。それは内部にいるとなかなか気がつきにくい部分でもあるように思います。そんな時にちょっと視点の違うような人が保育に加わるというのはいい刺激になるかもしれませんね。「保育園にないような発想」ともありましたが、そんなことも生まれるかもしれません。保育園にない発想は=多様な価値観でもあるのかもしれませんね。難しいことではあるかもしれませんが、この「保育園にはない発想」を保育園にいる自分自身も持っていたいなとも思ったりします。そんなことをが思える、生まれる背景には多様な価値観を受け入れる集団が必ず必要ですね。
1mの正方形での折り紙やプールに大量のガチャガチャのカプセル、トイレットペーパーでぐるぐる巻きなど、子ども達にはたまらない企画ですね。前回の父親保育の時ににこにこ組の担当のお父さん達が新聞紙で部屋にボールプールをつくってくれましたが、子ども達も夢中になって楽しんでいました。そういった発想は子ども達の気持ちも大きく動かすきっかけになると思いますし、企画者の保育者のセンスが問われるところであると思いますが、流石その道のプロの人や、多方面で活躍されるお父さん達はは考え方が面白いなぁと感心してしまいます。
刺激以上のものがそこにあるようで、報告を読んでいてとてもワクワクします。実際に新宿せいが保育園の子ども達にはとてもアーティスティックな作品を仕上げる子がたくさんいると思います。本当は子ども達皆にその才能があるのでしょうが、それを活かすことの環境が整っていない保育園が多いことが日本の現状であると思います。子どもの感性をありのままに表現できるように、環境が整えられた保育園ばかりになればいいなとつくづく思います。