気をそらす

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子どもに対する関わり方は、その子の体調であったり、置かれている状況であったり、その子の特徴、興味といったあらゆる部分を考慮してのものになると思います。ですので、それぞれの子を理解するということが大切になってくるように思います。だからこそ、子どもへの関わり方は悩むことが多いのですが、先日、そんな子どもへの関わり方の学ばせていただいたので、報告させてもらいます。

まずは、わいらんすい部屋(345歳児)での出来事です。
新年度を迎え、それぞれの子たちが進級し、少しずつ子どもも、大人も生活に慣れてきたかなというそんな時期に、4歳児クラスの男の子二人がブロックゾーンでなにやら喧嘩をしていました。
言い争う声がなかなか大きく、一人の子は泣いているようだったので、あまり興奮させてはいけないと間に入ろうとしたのですが、その場にいた4歳児クラスの女の子がなにやら「いいことを思いついた!」という感じで、自分のロッカーに走っていきました。
そして、すぐ戻ってくるや、手に持っていたティッシュを左側の男の子(泣いていた)に渡したのです。ただ渡すだけではなくこんな言葉を添えていました。
「はい。このティッシュいい匂いがするよ」

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それを聞いた男の子は思わずティッシュを鼻に近づけました。そうするとさっきまでとは空気が一瞬で変わり、その場だけ静けさが訪れました。
結果としては、その後、男の子たちのトラブルはまだ続くのですが、この絶妙な女の子の関わり方に驚きました。
こういった場面でどんな言葉を男の子たちにかけるかなと考えると、「どうして泣いてるの?」「落ち着いて話をして」「何があったの?」ということが先に浮かんできそうです。しかし、この女の子はそのどれでもなく、「このティッシュいい匂いがするよ」と声をかけるのです。正しい行動を押し付ける訳でもなく、二人の間に強引に割って入る訳でもなく、まさにそよ風のように二人の間を吹き抜けていくような関わり方でした。
もしかするとこの女の子はこの二人の男の子に対する関わり方は言葉で言うのではなく、ちょっと意識を違うところに向ける必要があるのではと一瞬で判断したのかもしれません。

塾長の講演の中での話に「自制心」を育むために必要な力として「気をそらす」という力があるということをお話しされます。
この女の子の関わりは男の子に気をそらすきっかけを与えたのではないでしょうか。そうすると、自分自身で気をそらすことも大切ですが、子どもへの関わり方の一つとして「気をそらすきっかけを与える」というのは保育の中でも重要になってくることなのかなと感じました。

次は、公園での出来事です。
先日、わいらんすい組で近くの公園へ散歩へ出かけました。その公園には水が飲めるように水場が設置してあるのですが、どうやら3歳児クラスの女の子がそこでズボンを濡らしてしまったようです。
その子が私のところにやってきて「ねえねえ、濡れちゃった」としょんぼりした顔で訴えてきました。
それを受けて私は、この日がとても天気のいい日で、気温も高かったこともあり、「天気がいいから、遊んでれば乾くよ」と伝えました。
しかし、女の子はどうも納得がいかなかったようで、他の先生の所へいって、もう一度同じように訴えていました。

その先生というのはベテラン男性保育士のA先生です!

A先生はその女の子にこう声をかけていました。
前後に揺れる公園によくある乗り物を指差し、
「ここに座ってごらん。揺れてる間に乾くから」といったような声をかけておられました。

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そして、実際に女の子が遊具に乗ると先生はさらに「あ〜乾いてる、乾いてる」と声をかけます。

そっか!そんなふうに声をかければよかったのか!と気づかせてもらった場面でした。私の言い方では、具体的にどうすればいいか分かりませんし、ましてや3歳児クラスになったばかりの子なので、なおさら言っていることのイメージができなかったのかもしれません。

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遊具に乗ることで「ズボンが濡れている」という事実から女の子は気をそらすことができたのではないでしょうか。そして、「乾いてるよ」という言葉から自分が行なっている行動で間違えはなさそうだと確信したのかもしれません。
ズボンが濡れてしまったという負の状況をA先生の関わりから「気をそらす」ことで乗り越えるこができたように見えました。

何か我慢しなければいけない状況になった時に、「気をそらす」という方法が有効であるというのは大人でも参考になることです。どうしても甘いものが食べたくなったします。しかし、今さっき、ご飯を食べたばかりなのです。でも、食べたい。食べたいんです。なんてことでしょう。私の甘いものへの欲望ときたら…しかし、そこで目の前から甘いものを消してしまえばいいのです!甘味処から離れてしまえばいいのです!あんこを見なければいいのです!そんなふうに気をそらしてしまえばいいのですね(そう簡単にはいかない時もありますが笑)。

また、ちょっと辛いこととか、嫌なことがあった時もその感情に支配されるのではなく、何か楽しいことを想像するという気をそらすことで、また立ち直るきっかけにもなるように思います。
園での生活の中で、子どもたちはこの気をそらすという行為を自然と行っています。自らそれを行う力を持っていますが、その力の手助けになるような子ども同士の関わりや、大人からのアプローチの仕方があるのではと思いました。子ども同士の関係を作るというのは自制心を高めることにも有効なのかもしれませんね。そのために大人の関わりというのがあるのかなと思うと、保育というのは本当に奥が深いなと改めて思わされました。

報告者 森口達也

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