「◯◯君、ご飯だから◯◯君をおいでおいでしてきて〜」
0歳児クラスの保育者から、その言葉を受けた18ヶ月児は、同じ0歳児クラスの19ヶ月児に、食事ゾーンを指さして“一緒にご飯行こう”、“あっちだよ”とお誘いをしていました。それに気がついていない様子を察してか、迎えにいきたくなったのか、近づいてそうっと背中に手を添えて一緒に行こうとします。それに快く応えるかのように、颯爽と食事ゾーンへと足を運んでいくのです。
その一部始終を目の当たりにした私は、この言葉がけをした先生に「これ、すごいですね〜」と伝えると、その先生は「そうなんですよ。最近この2人よく関わるんですよね。」と言っていました。そして私は再び「すごいな〜」と心の中で思いました。1回目の「すごい」は子どもたちへでしたが、2回目は、働きだして1年目のその先生にでした。互いを求め合っていること、その子に関心があるという関係性を理解した上での言葉がけであったからです。
その時、こう思いました。もし、保育者が子どもに伝えるべきことをすべて、他児を通してそれを伝えることができたなら、他児の特性を活かして伝えることができたなら、どうなるだろうかと。おそらく保育者は、全体的にではなく個人的に伝えるため、声の大きさは小さくて済みます。また、直接子どもと話す機会が減るということは、必然的に子どもとの距離もとることができ、全体に目が行き届きやすくなります。そして、子どもは「伝え・伝えられる」関係によって他児との関わりが増え、社会を知り、生きていく上で必要な対人知性や自己理解をしていくのではないでしょうか。
私が、見守る保育に出会って衝撃を受けた本のひとつにこの本があります。
これによって、保育者の常識とは何なのか、常識を疑い本質を見る姿勢を持つことの重要性などを知るきっかになりました。ここでも、声の大きさについて書かれています。
声を小さくしましょうということではなく、子ども同士を結び付ける保育をしていると、自然と大人の声が小さくなっていくということであると、その本のひとつの答えにやっと辿り着いた気がしたのです。
保育者が排泄や食事、昼寝などに誘っても来ない時、手をつなぐことが好きな子に「◯◯ちゃんと手をつないで来て」と声をかけると、嬉しそうにその子を誘って来たりもしますし、お世話をしたがる子どもには、おやつを「◯◯ちゃんに渡してあげて」とか、「エプロンをつけてあげて」という主体的な役割を生む言葉をかけると、意気揚々と応えてくれます。一見、保育者主導に映る「言葉がけ」ですが、今後、子ども同士の関わりが加速する、自ら他児に関わろうと積極的になるような「言葉がけ」というのは重要であると思いますし、言い過ぎてもいけない難しさがあるように感じています。
対人知性を育むには、まず子ども同士を結び付ける必要があります。子ども同士を結び付ける「距離・言葉がけ・物的環境」によって、子どもは他児をより意識していくように感じます。その中でも、最近は「言葉がけ」に感動すること多かったので、報告させて頂きました。保育者の一言で子ども同士が結び付き、関わるきっかけが生まれます。「言葉がけ」は、不必要な介入を生みやすい印象がありましたが、一人一人の発達や特性を理解し、それを活かすために他児に向けさせる「言葉がけ」は、保育者の専門性のひとつでもあるように感じましたし、人間性が表れる部分でもあるように思いました。
(報告者 小松崎高司)
素晴らしい報告をありがとうございます。とても勉強になりました。
言葉がけ一つ、保育者、大人のセンスが問われるところですね。〝「言葉がけ」は、保育者の専門性のひとつでもあるように感じましたし、人間性が表れる部分でもあるように思いました〟とあり、〝人はその人が考えていること、そのものである。〟という言葉と繋がりを感じました。その人が考えていることが、言葉になります。どんな言葉を選ぶのか。子ども達が繋がり合い、〝結び〟を生み出せるような言葉、聞いている人が明るく幸せな気持ちになれるような言葉を選んでいきたいです。
また、ちっち(0歳児クラス)・ぐんぐん組(1歳児クラス)の子ども達の関わりについての報告であるのに、〝言葉がけ〟に焦点を当てていることが面白いと思いました。主役の子ども達は、言葉が未熟です。それでも大人の言葉はしっかりと理解ができているわけです。考えてみれば、お腹の中にいる時から言葉の海の中で生きてきたわけで、なので大人は、保育者は、日頃口にする言葉について、考えていく必要があるということを改めて感じました。
「言葉がけ」と聞くとついつい保育者から子どもへ、一方的に物事を分かりやすく伝えるためとか、やる気を起こさすようなものという印象が強かったのですが、そうではなく、子どもと子どもの関係を「結ぶ」という言葉がけが大切であるということを教えていただきました。子どもたち同士の関係が自然とうまれるような言葉がけ、関わり方を意識した保育をもっと丁寧にしていきたいなと思いました。そのためにはしっかりとした子ども理解も必要になってくると思います。せいがの職員のみなさんはその子ども理解ができておられるからこそ、子ども同士を結びつける言葉がけが自然と生まれてくるのだろうなと思いました。私もしっかりやっていきたいと思います。