表現の形 —絵本—

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先日、絵本の可能性をまた一つ、見出すことができた機会がありました。

3月14日に卒園式が行われました。その日に、毎年一冊のアルバムが配られます。それが「卒園アルバム」です。そのアルバムからは、卒園する子どもたちひとり一人の思い出を読み取ることが出来ます。アルバムには、好きな「外遊び・部屋遊び・歌・絵本」や、「楽しかったこと」「“ありがとう”と思ったこと」「お友だちのみんなへ(メッセージ)」などの項目があります。職員が把握している内容だけでなく、実はこんなことが好きで、こんな思いを持っていたとかと、その子の新たな一面・知らなかった一面をも知ることができます。

自分の気持ちをうまく表現できず、時には手を出してしまうほど不器用で、友だちには多くの誤解を持たれてしまう、一人の男の子がいました。担任の先生は、その子にはこんな良い所があるんだよということを、友だちにも本人にも辛抱強く伝えていくと同時に、自分の気持ちを意欲的に楽しみながら表現できるものを見つけて欲しいと願っていたと思います。

その子の卒園アルバムページで、好きな絵本のタイトルにはこう書かれていました

『けんかのきもち』

絵本「けんかのきもち」

絵本「けんかのきもち」

この絵本は、「けんか」をした子どもの頭の中で、ぐるぐるとかけめぐる言葉たちをそのまま文章にしたようなお話です。そこにはけんかの「原因」は出てきませんが、子どもたちの心の動きがエネルギッシュに表現されています。きっと、卒園を迎えたその子の気持ちと、絵本に出てくる「ぼく」の気持ちとが交わり、共感し、安心し、気持ちを整理することができたのではないでしょうか。

「表現」にも、様々な形が存在すると思っています。表情・言葉・沈黙・行動・目線などありますが、そこに「絵本」もある気がしました。自分の気持ちを代弁してくれている絵本、今の気持ちはこの絵本のこの場面、といったように、これも一つの表現の形であると感じたのです。

一昨日、担任の先生が、その子の話をしていました。「最近、みんなをまとめてくれる。時と場合を理解して、何をするべきかも友だちに教えてあげていたり、相手の気持ちを理解するのが上手なんだよね。」

その子は、2月17日に絵本マイスターになりました。絵本マイスターを考えた時、「たくさんの絵や文字に親しめるように」や「みんなに貢献できるように」といった願いがありましたが、そこに「自分の気持ちを理解し、表現できるように」といったことが追加できるかもしれません。

卒園式当日。卒園児がみんなの前で自分の夢を、自分の声で表現する場面があり、そこでその子はこう言いました。

 

「大きくなったら、漫画家になりたいです!」

 

一人でも多くの人に共感を与えられる、そんな漫画家になってほしいと思うのは、大人のエゴでしょうか…。

(報告者 小松崎高司)

表現の形 —絵本—」への2件のフィードバック

  1. 表現の形としての絵本という考え方、なるほどそのような考え方でもできるんだなと気づかせていただきました。卒園アルバムの内容に好きな遊びや、歌、絵本、楽しかったこと、ありがとうと思ったこと、みんなへのメッセージとありました。きっとそれぞれのこたえは、子どもたちによって違ってくると思うのですが、それはその時のその子の思いや、今の思いを表したものなのかもしれませんね。好きな歌は、もしかすると自分の一番好きな人が好きな歌だったからかもしれませんし、好きな遊びでは気の合う友だちと一緒に楽しく遊んだ思い出があったりするのかもしれません。そんな子どもたちの思いを想像し、尊重し、そこから何かを考えていけるそんな存在でありたいと思いました。

  2.  以前、その子が書いた漫画を読んだことがあるのですが、その絵の上手さにとても驚きました。最初、写し絵かと思った程です。漫画家になる人というのは、こうして子どもの時から絵を描くことが好きで上手だったんだろうなぁと思わせるような、そんな絵を描く子でしたね。
     好きな絵本に『けんかのきもち』が挙げられていたことや、将来漫画家になりたいと言っていたことなど、感動してしまいます。絵本マイスターという取り組みがこんなにも子ども達の心を動かす取り組みになったことが、本当に素晴らしいことだと、改めて感じます。

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