前回の報告の続きです。
藤森先生から、京都大学霊長類研究所、松沢哲郎(まつざわてつろう)氏と京都大学総長、山極壽一(やまぎわじゅいち)氏の研究する内容とともに、お話をいただきました。
〝人間の赤ちゃんはよく泣く一方で、よく笑う〟と言います。
人は、育児経験がなくても、赤ちゃんをあやす時の音声などは共通するそうです。その、〝あやす時の声〟と〝子守唄〟に密接な関係を見出し、子守唄とは即ち〝共感能力〟なのではないか。この説明を、京都クオリア研究所のHPにある〝第8回クオリアAGORA/~ゴリラから学んだこと~〟という会の山極氏のスピーチの中から見つけることができましたので、掲載させていただきます。
〝育児というのは、人間の音楽能力を向上させたのではないかという説があります。
乳幼児はまだ言葉を理解しません。泣き喚く乳幼児を黙らせるためには子守唄が必要です。子守唄のトーンやピッチは、どの民族にも共通の特徴を持っていると言われていて、子供は絶対音階をもって生まれてきますので、話しかけられる言葉の意味ではなくて、そのピッチやトーンに反応して泣き止む。だから、人間は、生まれながらにして子どもを泣き止ませるような話し方ができる。それは、実は音楽の能力なんだということなんです。そこから出発して、人間は、音楽を、大人同士のコミュニケーションに使い始めました。 なぜかというと、共感力を高めるために非常に有利だったんですね。音楽は一緒に歌ったり、一緒に聞くことで、お互いの間にある境界を低くし、一体化するような感情を高め、そして、満足感や高揚感を得ることができるわけです。〟
赤ちゃんをあやそうとする大人。大人に働きかけようとする赤ちゃん。その相互の関係が、子守唄という優しくて心安らぐ絶妙なハーモニーを生み出すのでしょう。
藤森先生は、「人類が脳を大きくした理由は集団を大きくしたから」と言います。それは、付き合う人が増えることで脳が大きくなる必要があったのです。つまり、人間の脳ミソは〝社会脳〟であり、その本質をもって考えると、保育の形態というものは、〝協働保育〟であるべきだ、という主張が何の違和感もなく、受け止めることができるように思います。
また、人間は他の大型動物に比べて出産期が短く、それが子孫を繁栄させることにとても適していた、とされています。そこから、このような関係性が見えてきます。
短いスパンで産む
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お母さん一人で育てることはそもそも無理
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色々な大人に育てられる
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協働保育になるから脳が大きくなる
「保育園が乳児から受け入れるのは、親が働いているからではなくて、乳児から集団の中に入るべきだから」と、藤森先生は言います。保育園は、働く親の為の場所ではなく、子ども同士が関わり合い、成長していく姿を見守っていく為の場であり、子ども達にとって大切な場所であるのだということが、大きな納得と共に、改めて保育園の存在意義を認識させられる思いがします。であるので、「親が働いていない子こそ本当は保育園に入るべき」と言い添えられた藤森先生のお考えにも、強い共感を覚えます。子どもの為に保育園は、必要なのです。
また、最近の研究で面白い結果が出ていることを藤森先生は教えて下さいました。嬉しいことに情報量が溢れんばかりな為、箇条書きにて記述させていただきます。
- 子どもは小学校4年生で成績の差が出てくる→預けた保育園の質が悪いとそこで成績が下がってしまう傾向がある
- 2歳児クラスの担任がすごくいい人だったら、小学校3年の時の成績に影響する
- 3歳までの育ちが、4歳半で現れる
どれも面白い研究内容ですね。では、質の高い保育、質の高い保育園とは、どのような園を言うのでしょうか。
とても美味しかったです♪♪♪
そして、本題へ。藤森先生は、3つの項目を挙げてくださいました。
1,保育者の子ども達への関わりが温かく、応答的であること。
〝応答的〟。何とも心地よい響きですね。最近の研究で、〝赤ちゃんは大人に働きかける〟という事実が明らかになっています。今まで大人があやすことで笑っていた、という考え方とは違う考え方ですね。それを大前提にして、〝応答的〟の例として、〝先に赤ちゃんが笑いかけているので、その笑いかけに答えてあげる〟ということを、指します。指差しもその一つです。先に赤ちゃんが指差しをして働きかけているので、それに応えてあげる、そのような保育園が、質の高い保育をしている、と言えます。
2,共に考え、深め続けること。
知的な取り組みを一緒に考え、一緒に子どもと寄り添って貢献することのできる保育園が質の高い保育をしている、と言えます。
3,子ども主導のあそびや活動と、子どもが中心で、教師がそのつなぎ役をしながらあそびを発展させていく保育者の多い保育園
この3つが挙げられました。何とも興味深いですね。
(自分の園ですので、肩を持ってしまって申し訳ないのですが(笑)新宿せいが保育園はこの3項目、全てを網羅していると言って過言でないと思っています。ご興味のある方は、ぜひ一度、見にいらしてくださいね。)
そして、〝マシュマロ実験〟についても話がありました。藤森先生のブログ『臥竜塾』の中にも度々登場しています。
藤森先生の最近の講演でも使われたパワーポイントの画像を掲載します。
この実験結果を見て、藤森先生はこう仰っていました。
「だから、給食の〝いただきます〟を皆ですることは意味があるんだよね。」
集団の中で、皆が集まるまでの少しの間我慢をすること。この積み重ねが一日の中に必ずあります。家の中にいてしまっては、まして一人っ子ならばなおさらで、何でも自分の思う通りに事が運ぶ毎日の中では、もしかしたら目の前のマシュマロを我慢する力は養われていかないのかもしれません。
親や家族という小規模の中でなく、〝集団〟の中で様々な体験を積み重ねていくこと。これは、この時代において、保育園の持つ大きな意義の一つであると、改めて感じました。
「だから、保育園は親が働いていても、働いていなくても、乳児から入れるべき。そして、母親の存在はとても大切なので、保育時間は短くすべき。」
藤森先生は、こう結論づけて下さいました。
集団。そして、協働。面白く、また、意義深いテーマであると思います。
さて、この後、皆でテレビ番組を見ることに。NHKスペシャル『ママたちが非常事態!?最新科学で迫る ニッポンの子育て』と題した番組で、見終わった直後、妻のこと、保護者のお母さん達のこと、世の中の〝ママ〟達のこと、その苦労が、男性の僕らにも少しわかったようなそんな気持ちになる、とても素晴らしい番組でした。
長くお付き合いいただきありがとうございます。この番組の内容は、活動報告にて、後日報告させていただきます。
それぞれの龍が、それぞれの立場で、遥かなる道を歩んでいます。龍は〝竜〟とも書き、その字は〝竜巻〟という言葉に用いられています。〝その啼き声によって雷雲や嵐を呼び、また竜巻となって天空に昇り自在に飛翔する〟とされる龍。〝教養〟という竜巻に乗ってどこまでも飛翔していくような、そんな機会を、藤森先生がいつも与えてくださっていることに、感謝の気持ちでいっぱいになる、この度の塾でした。
(報告者 加藤恭平)
子守唄の話、とても興味深い話ですね。私はよく赤ちゃんをあやす時にビートルズの「イエローサブマリン」を歌うことがありました。もちろん、英語では歌えないので、鼻歌なのです。自然とこの歌で子どもが泣き止んでいたので、よく歌っていたのですが、もう少し子守唄で、日本的な歌を選ばなければいけないなと思いました。しかし、泣き止んでいたということはピッチやトーンが子守唄にちかいものがあったのですかね。藤森先生の仰る質の高い保育の3つの項目は常に意識していきたいことです。私はまだまだ反省することも多いので、これらの項目を意識して、子どもたちと関わっていきたいです。何かを教える存在ではなく、応答的な存在としての保育者でありたいですし、そんな人が近くにいるとやはり人は安心して様々なことに挑戦できそうですよね。NHKの番組は私も見ました。出産後のお母さんの気持ちを考えるきっかけになりました。
そして、題名は今回はコブクロでしょうか?笑背中を押してくれる一曲ですね!